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「少人数授業」の背景

1.「少人数授業」の背景

2001年度から導入される「少人数授業」は、一見「授業改革」の様相をみせていますが、実は私たちの「はたらきかた」への改革ではないでしょうか。

そしてそれは、東京の人事考課問題や、学区の自由化と統廃合問題、さらには教師リストラの問題とリンクしてしているのではないでしょうか。

以下、「少人数授業」の背景とねらいを分析してみたいと思います。

2.「学級」が解体されることの危機感

文部省は、2001年度から公立小・中学校の主要教科の授業で、通常の学級とは別に20人程度の少人数グループで行うという「少人数授業」を導入することを宣言しました。

まずこの改革で問題となるのは、子どもたちの生活や自治のよりどころの「学級」が解体されるということです。

たとえば、「少人数授業」化された時間の中で起こったトラブルはどこで話し合われ、そのことを解決するための子どもたちの行動はどこで決定されるのかという問題です。

当然「少人数授業集団」でその授業の時間内に進められることになるとは思うのですが、教科ごとにメンバーが変わるという中では、その指導や子どもの権利が保障されるのはむずかしいのではないでしょうか。

また父母の学校参加の道がせばめられることも問題です。なぜなら父母の学校への要求の多くは「学級」をよりどころとしてすいあげられてきた経緯があるからです。

さらには、習熟度別・能力別・興味関心別学級編成の方法など多くの問題点があるのですが、そのことについては何の論議もなく、現場の声も無視した形で「少人数授業」は進められようとしています。

しかしこれらのことを重要な問題点であるととらえつつも、実はその背景にはもっと大きなテーマが隠されているような気がします。

3.非常勤講師の厳しさ

「少人数授業」を推進するための教員の増員は、財政負担の少ない非常勤講師を活用すると考えられます。

ここでまず問題となってくるのは、労働条件の保障が十分でない非常勤講師が増えることで「物言え(ぬ)教師」が増え、豊かな実践が展開されなくなる可能性があることです。

文部省に先がけて市職の教員を配置して、「少人数教育」を推進してきた千葉県浦安市の「少人数教育推進委員」(非常勤講師)の服務規定は、1学期は年休はとれずに休むと欠勤扱い、そして子どもの指導に対する時間給なので長期休業中の勤務がなくて給料もなし、さらには、単年度契約制ですから、次の年の保障もありません。

地方によって当然その服務も変わってくるとは思いますが、いずれにしても非常勤講師は厳しい条件の中で働くことになると考えられます。そしてそういった環境の中で豊かな実践を展開することはとても難しいのです。

ちなみに浦安市議会は、2000年11月15日に、文部省の少人数[授業]を批判しつつ、少人数[学級]実現のための意見書を文部省に提出しています。

少人数[教育]をいち早く実施した浦安市は、さすがに現場の混乱と、市の財政問題、さらには、県内で不登校の割合が上位であることなどから、遅まきながらやっとその問題点に気がついたようです。

4.教師の評価の道が開かれることの問題

「少人数授業」の取り組みにより、教師の評価が露骨に行われる道が開かれたと感じています。

「少人数授業」で、そのコースごとのめあてを明確にし、その目標の達成度をたとえば共通テストなどを使って教師を評価することが予想されます。

これは、東京の人事考課的な制度が全国に広がれば、大いに利用される可能性もあります。

そのことと関連して、おそらく次には全国共通テストが用意されていると予想されますが、共通テストが実施されれば、そのことにより学校間競争がさらに激化し、学区の自由化とあいまって、学校の統廃合がさらにすすむ可能性もあります。

5.21世紀の学校づくりの視点

こういった時代の流れの中で私たちは、常に教育実践のテーマと私たちの「はたらきかた」を統一的に視野に入れながら、新しい時代の「『学校』集団づくり」を展開することが求められています。そのために、当面以下の三つの視点をあげておきたいと思います。

一つは、豊かで創造的な教育実践が生みだされるための、教師の権利と自由を保障することです。

二つ目は、「わかる授業」について、体制的な視点と、教科内容的な視点とを統一的に論じあうことです。そのさい、体制的(習熟度別グループ編成など)な取り組みをすれば、子どもたちはわかるようになるという幻想を捨て去ることです。そして大切なことは、教科内容の精選であり、その指導の中身であることを再度確認することです。

三つ目は、子どもたちの自治活動と父母の学校参加を保障し、育てる指導を推し進めることです。

それぞれについては今回のテーマから外れますので詳しくは述べませんがぜひそれぞれの職場や民間教育団体での研究会で検討してほしいと思っています。

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